大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1755号 判決 1949年3月15日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人中村登音夫の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

辯護人中村登音夫上告趣意第一點について。

按ずるに論旨は原判決は被告人の原審公判における「道子の肩に手をかけたのは真実埃を拂ってやらうという親切心からで他意があった譯ではない且つ同女の口を掩ひ咽喉部を手で扼す等の暴行をしたのも、同女が自分の行動を誤解して叫ぶのでそれが隣家に聞えては困ると思ひその誤解を解くために落付いて貰はうと思ってやったので強姦の意圖からではない」と供述した部分を證據として擧示したのであるが右供述部分は第一審においては殆んど被告人の有利に採用して被告人に強姦の意思なき事実を認定したほど有力な辯疏であるにかかわらず原判決は右被告人に有利な辯疏を證據として擧示しながら之れを排斥し得る證據を示さずして漫然被告人に強姦の意思があったと認定したことは採證法則に違背すると言うのであるが、右辯疏にかかる供述によれば被告人は強姦の意思はなかったと述べていることは明らかであるが右供述によって被告人は被害者の口を掩い咽喉部を手で扼する等の暴行をした事実を認め得るばかりでなく原審において證據として擧示した臼井彰雄に對する檢事聽取書中の同人の供述及び檢事の檢證調書と右辯疏に係る部分とを對照して判斷すれば被告人に強姦の意思があったことを推斷し得るものであるから原審において被告人の右供述を證據として判示事実を認定したとしても何等法則違背とならないものである。從って論旨は理由がない。

同第二點について。

論旨は原判決擧示の鑑定書は鑑定の結果に對する法醫学的説明が缺けているから證據能力がないと主張するのであるが、舊刑事訴訟法第二二一條第一項は鑑定の經過及び結果は鑑定人をして鑑定書又は口頭を以て報告せしむべしと規定しているだけであって鑑定の結果に對し一々科学的説明をなすことは必ずしも必要とするものではない。記録に徴するに所論鑑定人黒岩作次の鑑定手續は適法になされたものであるから同鑑定の結果に對する證據價値の有無は別個の問題であるが證據能力がないものであるとはいい得ない。そして鑑定書によれば被害者道子の死亡原因は同女の頚を扼した爲めではなくて絞頚の爲めであると判斷し其判斷理由は同鑑定書記載の「解剖檢査記録」により自ら明らかであるから所論の如き證據能力なきものであるとはいい得ない。論旨は理由がない。

被告人小林善吉の上告趣意について。

四、未決勾留の點について。

第一審判決に對し被告人は上訴を抛棄したにかかわらず檢察官において控訴申立をしたのであるから右申立後の第二審における未決勾留日數は舊刑事訴訟法第五五六條により當然本刑に算入されるものであることは所論の通りである。しかし右未決勾留日數は同條により判決確定後其執行に當り當然通算されるものであって刑法第二一條により判決主文において通算すべきものではない。從って原判決は所論の如き違法はない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法施行法第二條舊刑事訴訟法第四四六條により主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例